驚きの実話 「なっ、ない!」

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今から20年ほど前、私が建築工事の現場管理者として働いていた時の事。
大宮にある、某電機メーカーの営業所における大規模な改修工事に携わっていた時期があった。 建物のほぼ半分を解体して外壁をふさぎ、その跡地を駐車場にするという大掛かりな改修だった為、毎日、様々な業種の職人達が出入りする、賑やかな現場であった。

そんな現場で、工事も終盤に差し掛かりつつあった頃、ある困った出来事がちらほらと起り始めた。
それは、一部の職人達が昼食用に持参してくる弁当が、 時折、無くなってしまうというものだった。
ある時は電気屋、ある時は鉄骨屋、またある時はサッシ屋の弁当が、という風に、 一週間に一度くらいの割合で、誰かしらの弁当が消えてしまうのだ。大抵は、職人各々が乗って来た車の助手席に置かれていた弁当が無くなる、というケースだった。

これに関しては、きっと競輪でスッた連中の仕業に違いない、というのが、職人の間でのもっぱらの噂だった。彼らの間ではよく言われるらしいのだが、 競馬場や競艇場、競輪場など、いわゆるギャンブル場が近くにあるような工事現場では、様々な物品が盗まれるケースが多々あるようなのだ。
ギャンブルで負けた者たちの一部が周辺をうろつき、家屋や工事現場等を物色しつつ、スキあらば盗みを働く、というのが職人達の共通した見方だった。

言われてみれば、確かに、その現場があった大宮には、競輪場があった。また現場自体も工事の終盤で仮囲い等も撤去しており、 通行人が足を踏み入れる事自体はさして難しい事でもなかったのだ。
現場内の車に鍵をかけない職人達もおり、数台並んだボックスカーの陰で誰かがコソコソやっていても、 工事中であれば人目に付きにくかったのも確かだった。

只、この件に関しては、車の施錠をするなり、弁当は事務所内に置くなり、職人達にちょっとした注意喚起をした後には盗難も 起きなくなって事無きを得たかに見えた。
が、それも束の間、ある朝、今度は想定外のある物が、現場から忽然と姿を消した。

その朝、私が現場に着くと、先に来ていた解体業者の一行が、整地半ばの更地の一角に集まっていた。
私に気付くと、親方が切なげな口調で言った。

「ないよっ、ないって、カントクーーーっ!」

一行が囲むように集まっていたその一角に、昨日はあって、その朝になかったもの。。。

それは、、、 パワーショベル だった。 しかも大型の。

キャタピラーの上に旋回可能な運転台が載り、そこから伸びる長いアーム先端のバケットで土を掘り起こす、現場では一般的に「ユンボ」と呼ばれるアレだ。
数か月前から解体業者が持ちこんでいた、2台あったユンボのうちの一台が、無いのだ。

「ユンボ、ですよね?昨日の夜、一台は先に引き揚げさせたんじゃないんですか?」

「そんなわけないじゃんよ!まだ2台とも使うんだって!!」

親方は茫然と立ち尽くした後、頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

「かーっ、ヤラレたっ!ヤラれちまったよぉーっ!!」

「って、盗まれたって事ですか?!あのでかいユンボを、ですか?」

「業者になりすまして、夜中に持っていきやがったんだよ。まぁっずいなぁ、あのツメ、たっかいんだよぉ~。」

短い髪の毛を掻き毟るかのように頭をもみクシャにした後、やがて親方はスクッと立ち上がって言った。

「カントクッ、悪い!これから港に行ってくっから。」

「港、、、ですか?」

「速攻で海外に持ってかれちまうパターンが多いんだよ、こういうのって。」

そう言い放つと、親方はさっそうとトラックに乗り込んで、行ってしまった。

親方が去った後、改めて痕跡が残っていないか周辺を見回してみると、整地半ばの更地に残ったキャタピラーの跡が、消えたユンボの辺りから、 車両用の門扉の方まで続いているのが見て取れた。
道路側に出てみると、土を巻き散らして続くその二本の跡は歩道を横切り、車道にまで伸びていた。 そして車道と平行に数メートル進んだ辺りで、そのキャタピラーの跡は消えていた。

やはり親方の言った通り、レンタル重機の業者になりすましたプロの窃盗グループによる計画的な犯行のように思えた。
実は、こういった重機のキーは通常、 というか当時は、使い易いようにシートの下などに隠しておく事も多く、実際、この現場の解体屋も例外ではなかった。
プロの連中なら、 この辺の事情を把握していてもおかしくはないし、第一、下見もしていたはず。運転も手慣れていただろうし、後は乗り付けた重機運搬用のトラックにユンボを載せて、何くわぬ顔でその場を立ち去ったのだろう。
ヘルメットに作業服の集団が夜間に重機を運び出していたとしても、夜間交通量も多い幹線道路に面したこの現場では、 傍から見てもさほど違和感のある光景ではなかったはずだ。

翌日、ユンボの行方を突き止められないまま現場に現れた親方は、休憩の度に嘆いていた。

「車体はいいから、ツメだけでも返してくれよ~。」

無理もない。 どんな高品質の物を使っていたのか知らないが、親方曰く、盗まれたユンボの本体よりも、アームの先に付いているツメ(バケット)の方がはるかに高価で、 あれだけで、ウン百万円するというのだから。

その後も、親方は色々と手を尽くしたようだが、結局、盗まれたユンボが見つかる事はなかった。弁当ならともかく、 あれほどの大物が工事現場から盗まれるとは、まさに想定外の出来事であった。

窃盗のプロ、、、その犯行の大胆さは恐るべしである。

(終わり)

       
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