20年ほど前、私が建築工事の現場管理をしていた頃、同じ会社の先輩の現場で、ちょっとした事件が起きた。それは、某電機メーカーの、 とある営業所の改修工事現場での出来事。。。
営業所は当然の如くコンピューターでの業務が中心の為、曲がり間違っても、工事の影響で電源が切れる等の問題が起きないよう、 細心の注意を払う旨の指示が出ていた。工事用具を使うコンセントは限られ、また誤ってPC等のコンセントを抜いてしまう事の無いよう、再三に渡り注意が促されていた。
そんな状況にもかかわらず、ある日、営業所の重要なPCの電源が急に落ちてしまった。一部のPCだけが落ちたので、 ブレーカーダウンではなく、コンセントが抜けた可能性が高い。当然、その疑念は工事業者である先輩達に向けられる事になった。
現場の工事監督者である先輩はすぐに営業所の所長に呼び出され、誰かコンセントを抜いてしまった者がいないか、徹底的に調査するように命じられた。
< あれだけ、日頃から口を酸っぱくして言ったのに、まさかウチの連中がそんなヘマをやるわけがない。 >
そう高を括っていた先輩だったが、いざ電源の落ちたコンセントの位置を確認してみると、それは工事作業エリア内で、 営業所の人が手を触れる可能性は低い場所だった。また、コンセントが外れていないところを見ると、 やはり職人が何かの事情で一度コンセントを抜き、再度差し込み直したと考えるのが妥当な状況だった。
< 念の為、一人ずつ職人達に事情聴取してみるしかない。 >
彼は、電源が落ちた当初、その電源付近で作業をしていた職人を中心に、次々に話を聞いて回った。 内装屋、サッシュ業者、大工、雑工、果てはそんなミスなどしようはずもない電気配線業者に至るまで確認してみたが、誰もコンセントなど抜いていないという。
やがて午後3時の休憩となった際、彼は職人達を一堂に集め、再度確認をしてみた。
「本当に誰もコンセント抜いてないの?またはコンセントに道具やら資材やらをぶつけちまったとか? 誰がやったにせよ、オレの監督責任なんだから正直に言っちゃってよ。」
数分間の沈黙の後、やがて大工の一人がポツリと言った。
「しっかし、あれだなぁ、おい。目にも止まらぬ早さで、パパッと抜いて差し 直したってのに、電源が落ちるなんて事あんのかよ?」
「そっ、それじゃないですかっ! 山倉さん!!!」
「バッ、バカヤローッ!オレがあれほどの早業ですぐに差したんだ。そんなんで電気なんか落ちねえだろうよ!?」
「はっ、早さの問題じゃないんだって! 一瞬でも抜いたら終わりなんだよ、電気ってのはっ!!!」
大声で交わされた二人の会話から、全てを察した営業所の所長は、もはや怒る気も完全に消え失せたのか、ヘラヘラとただ、力なく笑っていたのだとさ。
ちゃんちゃん。
(終わり)