管理人の独創小説 『首長族の宴』

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(21)ビーチ・サンダルとローファー

昼食を食べ終わり、出発まで30分程、自由時間があった。ロンとソンブーンがやって来て、セパタクローをやろうと言ってきた。籐製のボールを蹴って行う、 蹴鞠とバレーボールを混ぜたような、東南アジア独特の球技だ。ソンブーンがその籐製のボールらしきものを手に持っていた。

女性2人と浩之は辞退したが、他の5人でやる事にした。ネットも無く、またロンとソンブーン以外は初体験なので、単に皆で輪になり、 ボールを落とさないようにラリーを続ける、という程度のルールにした。

いざ、スタートしてみると、軽くて蹴り易いボールではあるのだが、皆慣れていない事もあり、時折とんでもない方向に飛んでいき、なかなかラリーが続かない。 しばらく続けているうちに飛ぶ方向こそ改善されたが、お互いの距離感が掴めない。自分の遥か手前のボールを辛うじてすくうように蹴ると、 目の前で渡された相手がそのボールを強く蹴り過ぎてしまい、今度は頭越しにボールが飛んでいくという、お互いが意図しない嫌がらせのような事を繰り返すのだった。
そのうちロン、ソンブーンと清彦のアジア勢は小気味よくラリーが繋がるようになったが、欧米人二人はその長い脚がもつれるのか、ボールを落とさずにすくう、 という動作に馴染めないようだった。サッカーのようにボールを転がすのと、ノーバウンドですくい上げる、のとではかなり勝手が違うのだろう。

それに比べアジア勢はその足の短さがむしろ有利に働いているのかも知れない。初体験の清彦にしても、順応するまでにさほど時間は要さなかった。

あっという間に20分程が過ぎ、そろそろ皆バテてきたところで終わりにした。考えてみれば、これから山を登るというのに、みな既に汗だくになっていた。

さて、いよいよトレッキング開始だ。

ここで、一行に新たな仲間が加わった。村への案内人兼物資運搬人だ。村へは山を歩いて登るしかない為、村人の食糧や生活用品などを運ぶ為に、 彼のような存在が必要不可欠らしい。ここから村まで彼が案内も兼ねて同行するとの事だった。

これを聞いて、浩之が満足げに言った。

「きよ、こりゃ、ホンモノだわ。」

運搬人の彼は、真っ黒に日焼けした華奢なおじさんで、前歯が2・3本掛けており、赤塚富士夫のマンガにでも出てきそうなキャラだった。 老けて見えるだけかも知れないが60歳近いのではないだろうか。背中には大きな籠を背負い、中に様々な物が詰まっているようだった。

「おい、おい、おとっつあん、ビーサンだぞ、ビーサン!山登れんのか?!」

彼の足元に目をやった浩之が驚きながら言った。本当にビーチサンダルだった。

「このおじさんがタダモノでないのか、登る山がたいした事ないって事なのか。」

清彦はそう付け加えた後、改めて浩之の足元にも目を向け、心の中でこうつぶやいた。

そういう兄貴もあまり人の事言えないだろ、と。

その浩之が自ら履いていたのは、色落ちした赤いスウェードのローファーだった。捨てようと思ってる靴だからいいんだよ、と浩之は言っていたが、 どう考えても登山向きではないだろう。何しろ他の参加者のほとんどはしっかりしたトレッキングシューズを履いており、ガイド二人と清彦ですらそれなりのスニーカーだ。

結果、尋常でないのは、運搬人のおじさんと浩之くらいのものだった。

レストランを後にしてしばらくは、田舎のあぜ道のような平地をひたすら歩き続けた。遠くの前方にはいくつかの山々が見えたが、 その麓までですら相当の距離があるように思えた。近くを歩いていたロンに清彦が聞いてみた。

「ラフ族の村っていうのは、あの向こうに見える山の辺り?」

「えーと、手前に見える山を越えて、更に二つほど山を越えた辺りかな。」

なるほど、そりゃ3・4時間かかるわけだ、と清彦は妙に納得した。

先頭を歩くビーチサンダルは、時折後ろを振り返り、皆のペースに合わせて歩く速さを調整しているようだった。後ろの一行は遠足の様に列をなして続き、 適度に会話を交えながら歩を進めた。順位が入れ替わるレースのように、それぞれの位置関係が随所で入れ替わり、それが互いに言葉を交わす良いきっかけにもなった。

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