管理人の独創小説 『首長族の宴』

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(20)多国籍チーム

翌朝、清彦は頼んでおいたモーニングコールの声で7時に起きた。かなり熟睡できたようだし、目覚めも良かった。まぁ、昨日の4時起きに比べれば遥かにマシだな、と朝の一服に火を付けながら、その爽快な気分を味わっていた。一方、浩之は一向に起きる気配がなく、清彦は5分おきくらいに何度か浩之の肩を揺さぶって、なんとか目を覚まさせた。

その後、手早く準備を済ませ、朝食のバイキングを適当に摘まんだ後、ロビーでツアーガイドが訪れるのを待った。この宿には連泊するつもりで、大きな荷物はベルマンデスクに預ける事にした。

しばらくして定刻5分程前に、それらしき人物が入ってきた。サングラスをしていて人相がわからなかったが、タイ人風の男がロビーを見回していた。清彦は試しに椅子から立ち上がってみると、その男が近づいてきて、サングラスを外した。30前後だろうか。中肉中背で普通のタイ人ぽい風貌だが、やや眼光が鋭い感じで、目つきが何処となく日本の俳優・萩原流行(はぎわら ながれ)に似ていた。

<昔はけっこうワルだったんだろうな。>

清彦の印象だ。見方を変えれば、ムエタイの選手のように見えなくもない。

「アナタハ、イマザートサーン?」

「そう、いまざと。ノーザンツアーのガイドさんですか?」

「ハイ、ソウデース。ワタシハ、ロントイイマース、ヨロシクオネガイシマース。」

と、彼は胸に付けたガイドの証明証を手で指し示した。

ホテル前に止めたワゴン車まで案内されると、既に欧米人らしき他のツアー客も乗っていた。

「Hellow. How are you?」

清彦がありきたりの挨拶をしながら、三列ある後部座席の最前列に浩之と共に座った。ふと前部の席に目をやると、運転手の他、タイ人らしき高校生くらいの少年が助手席に座っていた。後ろの席を振り返って、二人に挨拶した。

「コンニチハ。ワタシノナマエハ、ソンブーン、デス。カレノアシスタント。ヨロシクオネガイシマース。」

と、最後に乗り込こもうとドアを開けた先程のガイド・ロンを指さして言った。ソンブーンは愛嬌のある明るい少年で、ムードメイカーというか、場を和ますような雰囲気を持っていた。

車が走り出すと、ロンがツアーの行程について、確認も含めた案内を皆にし始めた。母国語でないたどたどしい英語は日本人二人にとっては却って聞き取りやすかった。只、後ろの欧米人四人はちゃんと聞こえているのかいないのかリアクションに乏しく、ロンの説明は次第に、今里兄弟だけに聞かせる様な声量に絞られていった。

しばらくの間、殺風景だが舗装の良い広い道路を延々と進み、一時間ほど揺られたあたりで一度、休憩の為に車が止まった。売店が一軒ある以外、周りには何もなかったが、各自、トイレを済ませ、飲料水等を買い込んだ。やがて車の近くに一人二人集まり出した他のツアー客と軽く会話を交わした。欧米人四人のうち二人は女性で、一人はイギリス人、もう一方はドイツ人の、友人同士との事だった。他の男性二人は、アメリカ人とフィンランド人で、こちらはそれぞれ単身での参加だった。

再び車に乗り込み、ひた走ること一時間強、第一のプログラムである川上りの船着き場に着いた。この先、車は使わない為、ここまで運んでくれた運転手は一人で引き返した。遠目に山々が見える平地の小さな村の中を抜け、乾いた砂の坂道を数十メートル下って行った。正面に、決して美しいとは言えない、幅7~8m程の茶色い川が現れた。周りの景色にしても木々は所々生えているものの、何かシットリ感が無いというか、例の首長族村にのように「ベージュ」の世界だった。川岸には大きな像が二頭繋がれており、鼻をプラリプラリと揺らしている。脇には売店があり、今一度、トイレにいっておこうと、清彦は店の隣の斜面に建つ建物の階段を上がった。「W.C.」の矢印に沿って、バルコニーの様に川に面した回廊をぐるりと回って進んだ。用を足して出て来ると、さっきは気付かなかったのだが、回廊に囲まれた寺の仏堂のような空間に、大きな何かがぶら下がっていた。サンドバッグだ。

<へぇ、こんな辺鄙な所でもムエタイやってるんだぁ、やっぱり国技なんだなぁ。>

妙に感心しながら階段を降りると、浩之が待っていた。

「あにき、この上にサンドバッグがあったよ。ムエタイの練習用みたいだ。」

「マジ?久々に叩きたかったんだよな!きよ、これちょっと持ってて。」

と浩之がバックパックを清彦に預けようとした矢先に、ロンが皆を呼び集める声が聞こえた。

「Everyone, Time to go! 」

「なんだよ、もう行くのかよ~!」

不服そうに浩之が舌を鳴らした。

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