さて連中の今度のリクエストは「鴨川が一望できるバー」というものだった。
女の子のいる店はもう充分という事で、口直し的な店といいう事だろうか。鴨川が見えるとなると立地的には先斗町だろうと、またもやアトランティスの付近まで戻って聞き込み調査が始まった。
「ビューティフル・リバー・ビュー。」
何件に聞き回っただろうか。やっとそれらしい店を見付けて入ってみると、予想外にインテリア・センスの良いレストラン・バーで、賀茂川に面してかなり間口の広いテラスが設けられていて、確かに鴨川が一望できる。
手摺も床も重厚感のある石貼りのテラスは彼らの想像以上だったようで、二人ともエラく気に入ったようだった。店内で軽く食事をした後、テラスに出ると、欄干の上に置いた各々のシャンパングラスを鴨川に向かって突き出す様に合わせて、改めて三人で乾杯をした。
シャンパンの気泡に店内の灯りが微かに反射して、グラスの中にまるで星が散りばめられているかのように見えた。
<自分は今、一体どこにいるんだろう?>
京都にいるというより、どこか他のアジアの国にいるような不思議な気分になった。
<そうだ。オリエンタルか。>
タイのバンコク市内を流れるチャオプラヤー川の畔のオープンテラスのカフェ。老舗オリエンタルホテルの一角にあるその店には10年以上も前に訪れた事があったが、その佇まいのイメージが目の前の景色となんとなく重なり、妙に懐かしくも思えた。
やがて例の二人はテラスに佇んでいた他の女性客に、ボトルで頼んだシャンパンを振舞い始め、いつしか知らない者同士が歓談しながら、さながら結婚式の二次会パーティーのような様相を帯びて来た。そんな中、私はといえば、酔いで目が回り、体はフワフワしてほぼ夢見心地になっていたのだった。
と、そんな余韻に浸っていたのも束の間、程なくして私の記憶の中の状景は様変わりし、気が付くと、先程とは打って変わる喧騒の中、大音量の音楽がガンガンに鳴り響くフロアーで、狂ったように踊っている自分がいた。どこぞのクラブに来ているようだが、どうやってここに来たのかすら覚えていない。周りを見回すと、「ロシア人」と「マット」がソファー席に座って寛いでいるのが見えた。
<ん、なんでオレだけ踊ってんだ?>
席まで行って彼らに話しかけてみたが、さすがに疲れた感じで、笑顔にも少々力が無くなっているように見えた。
<ここは連中の為に話し相手でも探してくるか。>
私は再びフロアーに戻り、またもや狂ったように踊りまくった。
やがてかなり激しい踊りをする、女子大生と思しき女の子が目に付いたので、思い切って声を掛けてみた。
ナンパなんて十数年振りだ。こんなオッサンでは相手にされないかと内心ビクビクしていたが、意外にノリが良い子で話が続いたのをいい事に、仲間がいるので一緒に飲まないかと誘ってみた。
彼女を二人のいるソファー席に連れて行き連中の間に座らせると、彼らも少し疲れが吹き飛んだのか、身振り手振りも交えて、皆で楽しそうに話し始めたのだった。女の子の方は連中に任せて、こちらとしては久しぶりのクラブで勢い付いてしまった事もあり、私はここぞとばかりに脇目も振らず延々と踊り続けた。
ような気がする、たぶん。。。
(次のページに続く)