続いて「バー・アトランティス」。こちらもやはり15年程前「ぽんと」で腹を満たした後に「1人2次会」の店としてたまたま入ったのがきっかけだった。
「ぽんと」とは違い、さすがにバーというだけあって、表からはどんな店内か分かりずらく決して入りやすくはなかったが、四条河原町側から先斗町を歩いて行く中で、最初に「BAR」という文字が飛び込んで来たのがこの店だった。
7人程で満席になるカウンター席がメインの細長い店内は、奥に若干のグループ席もあり、その先には鴨川を見下ろす屋外のテラス席もあって夏場は納涼床として賑わうらしい。
この店で印象深いのは、バーテンダーのコミュニケーション能力の高さだ。常時2~4人いるバーテンダーは手を動かしながらも、常にお客の誰かと話をしている。狭いカウンター内のスペース故か、カウンター席の着座位置とバーテンダーの立ち位置とが非常に近く「話さないと不自然」というシチュエーションも手伝っての事かも知れないが、いずれにせよ、1人で飲んでいても全く飽きる事のないバーだ。
そんなアトランティスに、例によって「ぽんと」で散々鍬焼を食べた後で、今回も寄ってみた。
ここ数年は京都を訪れる機会もなかった事もあり、ドアを開けて店内を見渡しても、知った顔のバーテンダーはもう誰もいないようだった。
自分以外の客はまだおらず、少々躊躇しながらカウンター席に腰を降ろした。その時点では1人だけだったバーテンダーは最初のうちこそ必要以上の話をしなかったが、そのうち互いに打ち解けてきて、いつしか店内に二人の会話だけが響き渡る状態になっていた。
やがて6時を回ったあたりからお客が1人、2人と増え出し、7時になる頃には、カウンターの数席を除き、ほぼ満席状態になっていた。その頃にはバーテンダーも3人に増え、客との会話の頻度も高まり、カウンター席の客全体が同一グループではないかと思える程に和気あいあいとした雰囲気になっていた。
そんな中、ふと新たに客が入って来た。身長190㎝近くあろうかというスラリとした西欧系の外国人男性、二人だった。1人はロシア系というか、喩えるなら映画「アルマゲドン」に出てきたロシア人宇宙飛行士のような顔付きで、年の頃は40代半ばといったところだろうか。もう1人の方は、俳優のマット・デイモンとジュード・ロウの顔を8:2の割合でブレンドしたような面持ちで、年は若干連れの「ロシア人」より若く見えた。
二人はコートをハンガーに掛けると、私が一席ずれた事でできた2席に腰掛け、「Thank you.」と私にほほ笑みかけた。二人とも地味な色合いながら、かなり仕立ての良さそうな高級感溢れるダークスーツに身を包んでおり、只ならぬハイソな雰囲気を醸し出していた。やがてそのうちの1人がバーテンに向かって英語でドリンクのオーダーをすると、バーテンも慣れた感じで流暢な英語で受け答えした。
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