管理人の独創小説 「首長族の宴」

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(2)出発の日

4/29・土曜日、いよいよ出発の日。ゴールデンウィークを目一杯使っての海外旅行は、二人とも初めてだった。午前便のタイ国際航空に乗り込むと、 品の良い紫色のタイシルクに身を包んだアテンダント達の笑顔に迎えられた。

「やっぱ、アジア系の航空会社の方は、物腰が柔らかでいいよな。」

浩之が言った。
考えてみれば、浩之は今まで欧米系航空会社を利用する事が多く、アジア系の航空会社の利用は少なかった。一方、アジア系もよく利用していた清彦にしても、やはり浩之と同じような印象を持っていた。

なんだろう?従業員そのものの質の差なのか、文化的な影響なのだろうか?欧米系航空会社の接客態度には、何か冷たさというか、素っ気なさを感じるのは、 自分達が日本人だからなのだろうか?などなど、取り留めのない会話で交わしながら、ビール、ウィスキー、ワインとひと通りの酒を飲み干す頃には、どちらが先という事もなく、 二人とも夢の中にいた。

経由地のバンコクに着いたのは夕方、その後、便を乗り継いでプーケット国際空港に着いた頃には、既に辺りは暗くなっていた。空港からホテルへはタクシーで約90分。 プーケット島の南端に位置するナイハーン・ビーチ、その背後の山に寄り添うように建つ、プーケット・ヨットクラブ(The Royal Phuket Yacht Club)に到着したのは、22時近かったのではないだろうか。

80年代にオープンしたこの4つ星クラスのリゾートホテルは、タイ王室の血を引く建築家の設計によるもので、海に面した斜面を利用し段々状に客室が拡がり、そのどれもがオーシャンビューで、 室内とほぼ同じ広さのバルコニーを有している。

テラコッタのタイルが敷かれた床を目で追う先には、海を背に花壇のブーゲンビリアが咲き乱れている。そのスペースの半分は屋根付きで、 あたかも室内であるかのようにファブリック製のソファーが配置され、室内と室外を結ぶ中間スペースのような独特の空間を創り出している。

またホテル名にもあるように、 年に一度の世界的なヨットレースの会場にも利用され、シーズン中は、ヨーロッパ人をはじめ、様々な国の選手や観客で賑わうらしい。

因みにこのホテルを清彦が選んだのは、ずばり「段々畑」のような斜面の立地条件に惹かれたからだった。清彦は大学時代、観光学科でホテル・マネージメントのゼミを選考しており、 ホテル、殊にリゾートホテルには関心が強かった。

当時のビーチ・リゾートホテルは、一概に、ビーチフロントではあるものの平地に建つホテルが多く、結果、 特にコテージタイプでは海を望む景観の差が部屋によって著しく異なり、かといって、高層タイプでは景色以外は都市ホテルと大同小異で、リゾートらしさが半減してしまう。
そんな私見を持っていた清彦は、斜面にへばり付くような客室配置のホテルを、このプーケットで探していたのだった。

一方、浩之にとっては宿泊施設などはどうでもよく、今回もそうだが、過去の旅においても「何をするのか」という点には強く拘るが、 泊まるホテルに関しては宿泊料金の安さくらいしか気にしないようなところがあった。

只、そんな浩之だったからこそ逆にインパクトが強かったのか、このホテルをえらく気に入った様子で、柄にも無く、

「リゾートっていいなぁ。こういう楽しみ方もあるんだなぁ」

としきりに繰り返すのだった。挙句の果て、

「きよ、今日はここで寝ようぜ!」

と、バルコニーに置かれたサンベッドの上に寝転びながら言い出す始末だった。確かに、夜空に散りばめられた無数の星を眺めながらオープンエアーで飲む酒は格別だった。 日中は外に出るだけでも汗が吹き出すタイの灼熱も、夜にはやんわりとした暖かさに変わり、海から時おり吹く優しい風も相まって、いつ眠りについてもおかしくない程の心地良さに包まれるのだった。

「それなりのホテルに泊まったんだから、外で寝るなんてもったいないよ。」

と言っていた清彦だったが、グラスに注がれたウィスキーの液面が、その向こうの暗闇に微かに浮かぶ水平線の下に潜り込む頃には、そのまま夜風の中で眠りに落ちていった。

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