管理人の独創小説 『首長族の宴』

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(18)ホンモノはどれだ?

さて、チェンマイに着いたのはいいが、突然の予定変更で、二人はまだ今日の予定を決めていなかった。

「どうすっか、きよ。」

「とりあえず宿を決めて、荷物を預けよう。」

中心街までタクシーで向かい、日本である程度調べた「旅行代理店が集まるエリア」の付近に車を止めてもらった。この辺りに宿を取れば、「本物」の少数民族ツアーを調査するのにも好都合だ。 幸い、少し歩き回る程度で、目ぼしい宿が見つかった。そもそも少数民族ツアーの拠点にするだけだからグレードにはあまり拘らず、宿泊料金が無難という程度で即決した。客室数50室前後と思しき中級ホテルで、宿泊客のほとんどは欧米人のようだった。プールのある中庭を、回廊式に建物が取り囲んでおり、全体に漂うコロニアル的な雰囲気も悪くない。部屋に入ってみると小奇麗で風通しが良く、飛び込みで選んだ割には「アタリ」だった。

一服しながら清彦が言った。

「一日早めに来たから、存分に代理店巡りができるね。」

「何よりニセモノを見抜かなきゃならないからな。きよ、頼んだぞ。」

「頼んだぞって言われても。。。」

「きよは一通り質問だけしてくれればいいって。相手の反応や態度を見てオレが決めるから。」

「あぁ、そういう事なら、まぁ。。。」

「まずは明日の朝発のツアーを申し込んで、明後日は状況次第だな。」

ツアーに関する主な質問事項を示し合わせた後、二人は旅行代理店が固まる街の一角に出向いた。そこには7~8軒ほど小さな代理店が軒を連ねており、店の看板やパンフレットを見る限り、どの店でも似たような少数民族ツアーを扱っているようだった。

「ん、じゃぁ、手前の店から行ってみっかぁ。」

浩之が言った。

主に会話担当の清彦から先に店に入った。

「こんにちは。少数民族の村に行くトレッキングツアーを探してるんだけど。」

「はい。少数民族と言っても複数ありまして、そこに組み合わさるプログラムも色々あるんです。」

若い女性の担当者は、様々なツアーが紹介されたファイルを見せてくれた。

アカ族、ラオ族、ラフ族、ヤオ族、リス族、モン族等など、日本で調べたほとんどの部族が載っていた。ひと通りページを捲った後で、清彦は質問してみた。

「この中で、村まで歩く時間が最もかかるのはどれ?」

女性は一瞬怪訝そうな表情を浮かべた。おかしな事を聞くと思ったに違いなかった。一番近いのでなく、一番「遠い」ところを聞く客など、そうはないだろう。

「えーと、どれも歩く距離はそんなに長くはないですよ。車に乗る時間は結構長いですが。。。」

ここで、浩之が清彦に合図を送った。次へ行こう、という合図だ。残念ながら彼女は面接不合格のようだ。パンフレットをもらって店を出た。

「きよ、怪しいだろ。歩く距離が短いなんて。」

浩之なりの判断基準だった。確かにそのような部族が交通の便の良い場所に住むようなイメージは湧き難い。実際に、村に着くまでは敢えて山道を迂回し、帰りは村のすぐ近くから車が出た、等と言う「演出派」のツアーもあるらしい、と浩之は言っていた。

「じゃ、次行こう!」

その後、一軒目よりも細かい質問を店員に浴びせながら、4~6軒ほど回っただろうか。結局、各代理店のツアー内容には二人が予想していた程の大差がなかった。 どこも複数の少数民族村へのツアーを扱っており、間に挟む川下りやエレファンド・ライドなどプログラムとの組み合わせが若干違う程度に思えた。そのうち、二人にとって全ての店がいかがわしく思えてくる始末だった。

というより、逆にそれらが全て実はホンモノだったとしてもおかしくはない。そもそも日本で調べたニセモノ情報にあったツアーが、今探りを入れた数軒の代理店のツアーだという確証は全くないのだ。

次の店に向かう辺りで、清彦が冗談交じりで言った。

「いっそ、ホテルのツアーデスクで申し込もうか?」

「そうするか。みんな似たり寄ったりなら、ホテルの方がまだ信用できるかもな。」

浩之の返事は、清彦にとっては意外だった。
いつもの浩之ならこんな時、妥協を許さず徹底的に調べ尽くす性分だ。
清彦は思った。きっと首長族のツアーが想像以上に楽しかった事で、他への執着心が和らいだんだろう、と。

ホテルに戻り、ロビーの片隅に設置されたツアーデスクに行ってみた。聞いてみると、先程訪れた街の代理店よりツアーの種類が少なく絞り込まれているようだった。それが逆に、やや疲れ気味の二人には好都合ではあった。話を聞いてみると、「ラフ族」という少数部族の村へのツアーは片道3~4時間ほど歩く様で、かなりハードらしかった。

「よしっ!これにしよっ、ラフ族で決まりっ!」

浩之が即決した。

概要はこんな感じだった。朝8時にホテルでピックアップ。車で2時間ほど揺られた後、ボートで1時間ほど川を上る。ボートを降りた辺りで昼食を取ったあとは、ひたすら歩き、いくつかの山を越えてラフ族の村に辿り着く。翌朝は8時に村を出て別ルートで滝などを見ながら山を下り、麓近くから1時間ほどエレファント・ライド。そこからは迎えに来た車で帰路に就く。

これで一安心、と二人は部屋に戻り、夕食までのひと時、中庭を眺めながらビールで喉を潤した。

夕方になってチェンマイの繁華街に出てみた。さずがにメーホンソーンと違ってかなり賑やかではあったが、明日の事もあり、ぶらりと見て回った後、素直に宿に戻った。ホテルのレストランはあまりパッとしない感じだったが、二人ともどうでもよくなっていた。旅の後半に入り、ある程度の満足感とそれ相当の疲れも溜まっていたからかも知れない。適当に食事を済ませ部屋に戻った後は、明日に備えて早めに眠りに就いた。

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