管理人の独創小説 『首長族の宴』

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(14)禁断の掟

青年のリアクションを見て、自分らもいけると思ったのか、子供達が手を出してきた。さすがにあのネバネバを掌に乗せるのは気が引け、浩之は箸を渡して順番に食べさせてみた。

「グゥゥアーーーッ!」

最初の子供は何度か噛んだ後、飲み込まずに口を半開きのまま表へ走って出て行ってしまった。
みんなして先ほど取っておいた笑いが、ここでどっと溢れ出た。
しばらくすると彼女は泣きそうな顔で、まだ口を開けたまま戻ってきた。吐き出した後も、口を閉じてあの不気味な粘りを味わう事が耐えられない様子だった。その後、他の子供や大人にも数人試してみたが、うまいという者は一人もいなかった。結局、残りの納豆は青年が一人で平らげたのだった。

「やっぱ、青年はちがうよなぁ。別格だね。梅干しの2回目のリカバリーが凄かったもんな。」

浩之ももう、この試食会に充分満足した様子だった。

この後、魚肉ソーセージやベビースターラーメンも食べさせてみたが、やはりこれらは特にクセがあるわけでもなく、みな喜んで食べていた。

そうこうしているうちに時刻は10時近くになり、11時の消灯に向け、みな三々五々それぞれの家へと散って行った。

日本人一行が部屋に戻ると、後からジーンが入ってきた。翌日の起床時間を再確認し、消灯時刻である11時以降は絶対に灯りを付けないよう、再度注意を促して去って行った。顔から笑みを消して何度も力強く繰り返した「NEVER」という言葉が、やけに清彦の耳に残った。ジーンが話したように、周りの村から深夜に泥棒が入り込む事も珍しくない為、村全体で示し合わせ11時での消灯を厳守し、それ以降に付いている灯りは全て「敵の侵入」とみなして然るべき対処をする、という決まりが守られているのだ。

灯りを消し、5人揃って川の字に横になったまでは良かった。が、何しろ11時で眠りに付けるような年代の連中ではない。まして今日一日、数々の新鮮な経験をし、気持ちも高まったままだった。修学旅行での大部屋のように、誰からともなくヒソヒソとしゃべり出した。待ってました、とばかりに他の声がそれにくい付き、暗闇の中を声だけが無数に飛び交うのだった。

やがて浩之が言った。

「なんか腹減らない?」

と、枕元のバッグか何かをゴソゴソとやっているようだ。

次の瞬間、

「バリッ、バリ、ボリ、バリッ。」

「いっ、今里さん、まだベビースター持ってたんすか!」

もう寝ているどころではなかった。みな上体を起こし、暗闇の座談会が始まった。

今度は清彦が枕元でゴソゴソやり出した。

「今度は弟さんが何出すんすか!?」

「いやぁ、喰いもんじゃないんだけど、灯りを。」

清彦が出したのは、長さ20㎝程のキャンプ等で使う小型蛍光灯だった。スイッチを入れると、蛍光灯の黄色い光の前に、あのオレンジ色の細かい麺をつまんだ浩之の指が浮かび上がった。

「まっ、まずくないっすか?灯りは。」

「大丈夫でしょ、窓も無いし。このくらいの灯りなら漏れないっしょ。」

蛍光灯にタオルを巻いて、気休め程度に光度を調整した。

そこからまた薄暗がりでの会話が始まり、時刻も12時近くになっていただろうか、家の階段を静かに上がってくる音が聞こえた。

「まずい!ジーンさんじゃない!?」

と誰かが口にした時にはもう、出入口の戸が少しだけ開いた隙間から、ジーンの細い眼が中を覗いていた。戸を静かに開けて中に入ると、顔をしかめて「大きな」ささやき声で言った。

「ノォォウ! ダメェーッ! ホントウニ、ダメェェェ!」

思わず、ごまかす様に一斉にバタッと寝転がってしまった一同だったが、罪悪感に駆られ、一人また一人と上体を起こしてシーンの方に向き直った。

「皆にはピンと来ないかも知れないけど、この村にとっては本当に重大な事なんだ。実際に事件があったからこんな事をしてるんだよ。それに、僕と村との関係は信頼で成り立っている、と言っただろう? 村長に知れたら、君達のように観光客がこの村に泊まる事は二度とできなくなってしまう。お願いだから決まりは守ってくれ。」

そんな内容の事を、ジーンは静かに、だが力強く皆に向かって語りかけた。その日見た中で最も真剣な眼差しだった。その時5人が味わったのは、修学旅行で先生に怒られるのとは次元の違う罪悪感だった。

ジーンが去った後、灯りは消したままで、しばらく会話は続いたが、声がひとつ消え、ふたつ消え、やがて皆眠りに落ちて行った。

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