管理人の独創小説 『首長族の宴』

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(13)首長族の試食会

ジーンの話が終わってしばらく、参加者一行と残った村人の一部で、先程舞踊ショーが行われた小ステージ上に座り、片言の英語とジェスチャーを交えて自分達なりに親睦を図った。そのうち、浩之が思い出したように言った。

「あっ、そうだ!みんなにウメボシ食べさせてみようぜ!」

いたずらっ子のような表情を浮かべながら、宿泊所へ走って行った。

しばらくすると、コンビニ袋のようなものを手に、浩之が戻ってきた。

ステージ上に袋の中の物を広げると、雑多な食物が、次から次へと踊り出てきた。

梅干し、海苔、チーズ、魚肉ソーセージ、納豆、ナメタケ、ベビースターラーメン。

「今里さん!なんでそんなモン持ってんですか? 梅干しはまだしも、ナメタケって!どんなセレクションなんすかっ!!!」

青年3人衆の一人が声を裏返らせて言った。

「いやぁ、今回のツアーでメシがまずくて喰えなかった場合に備えて、日持ちの良さそうなモンを家からかき集めて来たんだよねぇ。でも夕食は美味かったし、もう必要ねぇかなって。」

清彦を含め、日本人だけがゲラゲラ声を上げて笑うのを見て、村人達はキョトンとしていた。

そのうち先程楽器を演奏していた、体格のいい青年が興味津々に体を前に乗り出してきた。

「彼に最初に食べさせてみよう!」

浩之が言った。

「何がいいっかなぁ?やっぱ、梅干しかな。じゃぁ、青年、ハイッ!」

瓶から取り出した梅干しを「青年」に手渡した。

「ホワット?」

青年が匂いを嗅ぎながら聞いてきた。

「アー、プラム、ジャパニーズ・プラム!デリシャス・アンド・サワー!」

と浩之。

「ソゥ~ワ?アイ・ライク・ソゥ~ワ。」

青年は酸っぱいものは好きなようだ。

恐る恐る最初の一口をかじった瞬間、青年の上半身は、活きのいい魚のように後ろに「ピュン!」とのけ反った。

「ノォォォ~ウ!ノォォォ~ウ!」

もがき苦しむような青年のリアクションを見て、今度は周りのみんなが背中をのけ反らせて大笑いした。

首を横に振りながらしかめっ面で上体を起こした青年は、その後少し間を開けて、果敢にも二口目に挑んだ。 今度は何か痛みにでも耐えるかのようにノーリアクションで、冷静に味を分析でもするかのように黙々と口を動かした。

「フゥゥーン。オウケイ。オウケイ。デリシャス。」

徐々に口が慣れたのか、その後は何事もなかったかのように2~3個試していた。 それを見ていた首長娘の一人が自分も食べてみたいと言うので、浩之が手渡した。 みんなの視線を集める中、娘は思い切って、丸ごと口に入れた。

「アゥアォ~ッ!」

わけのわからない声を発しながら、ステージの端から地面に向けて、娘は口にあるものを全て吐き出してしまった。

再び笑いの渦が巻き起こった。

「次は何がいいっかなぁ?」

浩之はウキウキしたような口調になっていた。

「じゃぁ、今度はチーズ行ってみようか!」

浩之は先程の青年に銀紙に包まれたプロセスチーズを手渡した。

銀紙を剥がして中身を見た青年は、何やら現地語でつぶやきながら、迷いなくその先端をかじった。「やっぱりね。」といった感じでうなずきながら言った。

「アイ・ノウ。アイ・ノウ。チ~ズ!」

食べた事があるようだ。周りの子供達もチーズという言葉に反応し、何人かが自分も食べた事がある、と言い出した。日本人一行はちょっと意外に思ったが、よく考えれば、チーズくらいはタイで手に入るだろうし、日帰りで訪れる欧米人のツアー客が所持していたものを食べさせた事があってもおかしくはない。

残念そうな顔をしながら浩之が言った。

「なんだぁ。じゃぁ、魚肉ソーセージも知ってるかもな。面白くねぇな。

でも、さすがに海苔は喰った事ねぇだろう。」

今度は、ビニールに入った味付け海苔を取り出し、青年に勧めた。

味付けだし、これは気に入るんじゃないかなと、清彦は予想しながら反応を伺った。

ところが青年の反応は「イマイチ」だった。見ていると、あまり口を閉じようとしない。

どうしたのかと聞いてみると、どうやら、あのバリバリとした食感が不気味というか不快らしい。試しに子供達にも食べさせてみたが、みな一様にまずそうな顔をした。

日本人にとって馴染みのある焼き海苔のあの食感は、彼らには食べ物としてかなりの違和感があったのかも知れない。紙でも食べたような感覚になるのか、溶けた海苔が口の中に残っているのさえも気持ち悪い様で、何人かは後で静かに吐き出していた。

「へぇぇぇ、ダメなんだぁ、海苔は。わっかんねぇもんだなぁ。」浩之が呟いた。

「じゃぁ、ナメタケはいけるかなぁ。あのヌルヌル感は平気かな?」

割り箸で瓶から取り出したナメタケをそのまま青年の掌に乗せた。 一瞬匂いを嗅いだ青年だったが、掌から一気に口に入れた。 今度はどんな反応をするのか、みな興味深々だった。

「グゥゥゥーッ!グゥゥゥーッ!!」

そうとう気に入ったらしい。今まででは最も良いリアクションだ。

子供達が我先にと手を出してきたので浩之が少しずつ分けてみたが、みな一様にいい反応だった。先程の海苔の時とは打って変わって、彼らの表情が明るくなってきた。

「そっかぁ。ヌルヌルは平気なのかぁ、じゃぁネバネバはどうだ?」

浩之が色々な物事を実際に試してみないと気が済まない性分だとは、清彦もわかってはいたが、首長族を相手に、楽しそうに「非常食」を試食させている姿は、イタズラ好きな少年そのものに見えた。

さて次はネバネバの大御所・納豆の出番だ。これに関しては、みな口を揃えて彼らには不評だろうと予想していた。スチロール製の容器を開けフィルムを剥がし、付属のタレとカラシをかけると、朝の食卓よろしく、浩之が割り箸で掻き混ぜ始めた。徐々に白い糸を引き始める得体の知れない茶色いブツを見て、首長族一同、不思議そうな面持ちで静かにその動作に見入っていた。

そのうち浩之は例の青年に箸と容器を渡し、同じようにやってみろ、とジェスチャーで伝えた。青年は神妙な表情で恐る恐る、持った箸をグルグルと回し出した。納豆を掻き混ぜるという小刻みな動作と、青年の必要以上に大きい背中との対比がこの上なくコミカルで、清彦は笑いをこらえるのに必死だった。

「オッケー、青年。トライ!」 浩之が促した。

2・3粒、箸ですくい上げられた納豆は長~く糸を引き、青年はその糸の処理に戸惑っていたが、そのまま口の方を箸に近付けて、パクリと口に入れた。日本人一同、梅干しの時のようにもんどりうって転がる青年を想像している中で、青年が顔を上げて、声を発した。

「グゥゥゥゥゥ~ッ!!!」

見ていた側が意外なら、食べた側の青年としても意外だったのだろう。その声は誇らしげに大きかった。が、大笑いしようと待ち構えていたみんなは、逆に肩を空かされたような感じだった。

「うっ、うまいんだ?」

浩之が、何やらがっかりしたような口調で呟いた。

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