伊豆半島の南、下田から西に向かってもう少しで松崎に抜ける辺り、山あいを静かに流れる那賀川の畔に、竹林に囲まれた海鼠壁の大きな屋敷が現れます。
江戸時代は大庄屋として、明治時代には製糸業として栄華を極めたという依田一族が残した、歴史的にも価値ある日本家屋を改装し、観光施設として新たに息吹を与えられた宿、大沢温泉ホテル、別名「依田之庄」です。
古き良き日本へと誘うような庄屋土間の玄関、緑豊かな中庭を囲む海鼠壁の回廊、初夏には無数の蛍が舞う庭園の池。園内のどこにいても、いにしえの日本を感じさせる佇まいは、長い歴史と浪漫を感じさせます。
やはり昔の名残と言いますか、見た目的には、宿というより大地主さんの豪邸といった感じで、ドッシリと構えた風格と、とても趣のある佇まい。
現代車と違って時速100㎞出すのがやっとのこの車では、正直しんどい道程でした。。。
周囲から隔絶されたような、とても静かな環境が魅力の大沢温泉「依田之庄」。
素朴な山里といった感じの、心安らぐ雰囲気に満ちています。
入り口付近には、かつて水力による自家発電をしていた頃の名残りという、立派な水車が。すぐそばを流れるの那賀川の伏流を引いています。
同行した秘湯好きの父親と、玄関前で一枚。
宿というより、酒蔵か何かに入って行くような感じもします。薄暗さがかえって威厳のあるシブさを醸し出しています。
館内の中心に位置する情緒豊かな中庭を取り囲む回廊。
初めて見るのにどこか懐かしさを覚えるような佇まいです。
入口付近の水車が取り込んだ水流が、この庭園の池に程良く流れ込んでいます。
庭の端に配された鹿おどしが、時折あの「カッコ~ン」という趣のある竹筒の音を響かせます。
管理人はこの部屋がお気に入りで、今回もこちらの部屋を指定して予約しました。
1階は道具箱の置かれた土間と情緒のある内風呂。箪笥階段を登った2階が居間になっていて、 蔵の開口部をそのまま活かした窓から中庭を眺めていると、鶯の声などが聞こえてきて、何とも言えない情緒が味わえます。少し遠目から、中庭の木々も織り交ぜて一枚。 この庭がなんとも居心地がいいんですよねぇ。
別にする事もないのに、けっこうな時間、この辺りをうろちょろしてしまいました。。。
さて、その「天保の間」に入ってみましょう。
なまこ壁の蔵に囲まれた回廊をぐるりと回っていきます。
はい、見事に何にも無い空間です。。。
実際にはこの左奥に、大きな道具箱が無造作に置いてあり、昔は、古民具や骨董品などを収蔵していた「道具蔵」だったことがうかがい知れます。レトロ好きな管理人には堪らないのでした。
キシキシと音を立てる階段を上って2階に上がります。
そうです。この天保の間、1階には先ほどの「ガラン堂」的な土間の他、内風呂があるのみで、居室は2階のみなのです。
この正面の窓から見下ろす中庭の佇まいがなんとも言えず情緒的で、窓越しにずっと眺めていたくなるほど。窓を開けていると、小鳥のさえずりが方々から聞こえてもきます。
天保の間から見渡す周囲の景色。
緑豊かな自然に囲まれています。
この依田之庄以外に目立った建物はなく、とても落ち着いて過ごせる環境にあります。
天保の間から眺める母屋の見事な瓦屋根。
一枚一枚の色や風合いのばらつきが歴史を感じさせます。
この反対側が冒頭の写真の入口正面にあたります。宿泊した夜には宿の方が宿泊客を集めて、いくつかの民話を聞かせてくれました。外国人の宿泊客もちらほらといて、 熱心に聞き入っていましたね。
こういった昔ながらの古い建物で、昔の民話を聞くのって、シチュエーションとマッチして、なかなかいいもんです。想像力が膨らみます。
餅つきをする、、、 あ、いや、
餅つきをするフリをする番頭さん。
部屋の写真が少なくて申し訳ないのですが、私自身はこの宿に3度ほど宿泊した事があり、いずれも写真にあった「天保の間」を指定していて、 個人的にはお薦めします。
名立たる作家たちが好んで宿泊し文学作品の構想を練った部屋というだけあって、独特の風情があります。
一方、情緒よりも利便性を求めるというなら、比較的新しい宿泊棟も含め、多様な部屋の種類があります。
只、天保の間を含め文化財にも指定されている建物で宿泊できるというのも、この宿ならではの贅沢ではないかと思います。