驚きの実話 「稲 or 住」

Foovoowoo Japan EnglishFoovoowoo Japan 中文Foovoowoo Japan 日本語Foovoowoo Japan FrancaiseFoovoowoo Japan Espanola

あれは1995年頃だっただろうか。東京・北区は滝野川の、とある工事現場での出来事。

当時私は20代半ば、小さな工務店に入社して1年余りの頃で、わずか4世帯ばかりの木造アパート新築工事で、現場管理を任されることになった。
その直前までは、他の現場で倍以上も歳の離れた50代ベテラン現場監督のもと、アシスタント的な業務に就いており、この滝野川の現場はいわば、現場監督としての一人立ちデビューの場でもあった。

大通りからやや離れた、小道の入り組んだ静かな住宅街の一角、すぐ脇のタバコ屋さんがお施主さんでもあるこの現場は、定年退職して暇を持て余しているご主人が、工事の模様を四六時中観察しながら、何やかんや話しかけてくる、ある意味和やかで、ある意味煩わしい現場でもあった。

因みにこのアパートの設計者というのが、私の勤めていた工務店社長の実弟で、著名建築家の元で10年ほど修行後に独立したという、そこそこ名の知れた方だった。
で、その奥様の父上というのが、前述のタバコ屋の主人ということで、要は社長の親戚が施主、いわば身内の工事案件ということになる。

ところで、このご主人、長身で痩せ形のお爺さんなのだが、歳の割にやたら眼光の鋭い、例えていうなら、あの「非情のライセンス」の名優・天地茂を彷彿とさせるものがあった。

聞けばこのお爺さん、1975年、沖縄県の本土復帰記念事業として開催された「沖縄国際海洋博覧会」を取り仕切っていた元お役人さんで、当時は<鬼軍曹>と言われて周囲から恐れられたという、曰くつきのお方らしかった。

と、話は長くなったが、そんなギラリとした鋭い眼光で、日に何度も現場を見回りに来るのだから、現場監督の私としては、 いつ難癖を付けられるか気が気ではなく、むしろこちらの方が監督されているかのような、妙な気分になるのだった。

やがて、そんな現場で数か月が経ち、ようやく環境にも慣れ始めた頃、2階で床材を貼っている大工さんと話をしていた時だった。
ふと階下から、聞き慣れない声が響き渡ってきた。

「お~い。XXXX(工務店)、いるかぁ~!?」

重低音の効いた、野太い声だった。

はて?
その日、大工さんの他には現場に出入りする職人などはいないはずで、怪訝に思いながらも、私は即座に階段を駆け下りていった。

1階に下りると、現場に面した小路には、身長180cmは優にあるだろう縦にも横にもゴツい体格の、見知らぬ男が仁王立ちしていた。
黒い革靴に黒いスラックス、怪しげな柄のワインレッドの開襟シャツ。 人相は元プロレスラーの坂口征二(俳優の坂口憲二の父親)を更に厳つくしたような、 普段は滅多にお目に掛からないような人種であった。

「ハイッ、XXXX(工務店)です。」

「オゥ、監督さん?」

「えぇ、そうです。どういったご用件でしょう?」

しばし不気味な沈黙の後、男は続けた。

「ん~、お兄さんも~、こういった人相の男が来たら~、だいたいどういうことか、、、わかるよな?」

「はっ?」

私は心の中で叫んだ。
< やばいっ!ついに来たか。これが例の地回りってヤツか! >

「例の」と言ったのは、前の現場でお世話になった先輩の現場監督から、その"地回り"という存在について話を伝え聞いていたからだった。
主に小さな工務店の工事現場などを回っては、"ホンの気持ち"を無心しに来る輩のことで、実際に一帯を縄張りとするソノ手の方々の場合もあれば、そうでない場合もあるらしい。
要は「みかじめ料」的な金銭をせびりに来るらしい。

先輩の話では、大手ゼネコンや名の知れた工務店などは、それ用の対策班というか顔の効く人材を社員として抱えていたり、 警察への通報など対応が徹底している会社が多く、そういった輩も迂闊に寄っては来ないらしいのだが、 だからこそ弱小工務店の現場にはここぞとばかりに現れるのだとか。

何しろ当時私の勤めていた会社は社長含めて10人ほどの小さな工務店。増して20代前半のヤサ男が現場監督とあっては、来るなという方が無理だったのかも知れない。

「そんな輩が来たら、まずは社長に報告して指示仰ぐ感じすかね?」

そういう私に先輩は、首を横に振りながら言った。

「社長に話したって、そんな者に一銭たりとも払う必要ないっ!って一喝されるだろうな。でもそれはそれだよ。保険料だと思って払っちまった方がいい。」

いわく、現場で盗難や事故、火事などが万が一の事があった場合に、余計な心配をしなくて済むというのだ。
要は、その<保険料>を払っておくことで、何か起きた際に、その手の輩の嫌がらせが原因では無いということで、最初から自分らの不注意も含めた他の原因に絞り込めるということが何より重要らしい。
確かに、只でさえ、日々何が起こるのかわからないのが工事現場だ。事あるごとに、もしやあの件での報復か?などと気を揉むのは、精神衛生上も良くないのは確かだろう。

と、一瞬のうちに当時の先輩とのやり取りが走馬灯のように頭の中を駆け巡るなか、私はふと我に返って男に言葉を返した。

「え、えぇ、まぁ、何となくは。。。」

「まぁ、ここじゃ何だから、あっちに行こうか。なぁ?」

そう言うと男は、更に人目に付かなそうな露地裏の方に、私を誘導した。 道幅2mあるか無いかの小路で、改めて男と向き合った。 目の奥を見据えるかのような鋭い視線を私に向けながら男が言った。

「住吉会のXXXってんだけどね、この辺りを回ってるんだわ。
で、どんなもんだろうね?」

その、どんな?という中には、私が断るのか断らないのか?というのと同時にいくら払えるのか? というお伺いの意味も当然含まれているように感じられた。

<確か、先輩は2~3万くらいって言ってたよなぁ。でも自腹で2万は痛いなぁ。>

払うか否かという点では、「払う」という事で腹を決めてはいたが、「いくら」払うかという点では、何とも決めかねていた。
取りあえず少しでも同情を惹いて値切れればと、即座に哀れな新米監督という体を装うことにした。

「え~と、それが、、、すみません。
ウチの会社、こういった事で経費が下りないもんで、全部、自腹なんです!入社1年目で安月給なもので、 何とかお手柔らかにお願いできないでしょうか?」

取り合えずは払う気があると踏んだからか、男の表情が心持ち柔らかくなったように見えた。

「ま、まぁ、お兄さんよぉ。こういうのは気持ちだからよ、な?」

口にした金額で相手がどう反応するのか、心の中ではハラハラドキドキながらも私は答えた。

「す、すみません、、、え~と、、、い、イチゴーくらいなら何とか。。。」

セ、セコイ、、、我ながら自分の言葉に苦笑した。先輩の言っていた相場である2~3万を少しでも下回りたいとの思いがそのまま出てしまった。 と同時に言ってから、ハッと不安がよぎった。

< ちょっと待て。イチゴーと言ってみたものの、端数の5千円、財布に入ってたか? >

ちなみに当時の私は、急に発生する必要備品などの現場経費に備え、常に3万円くらいは財布に入れてはいたのだが、仮に万札しか無かったとしたら、 状況が状況なだけに、「2万円でお釣り5千円ください!」などと言うのはあまりにもバツが悪い。

「まぁ、まぁ、そういう事ならな。」

いちおう金額的には納得してくれたらしい。そこで、私は恐る恐る財布の中身を覗いた。

おぉ!幸いなことに1万円札の他に千円札が7・8枚入っているではないか。5千円札よりもむしろ、辛うじて払った感が出ていいじゃないか! 私はゆっくりと札を数えると財布から抜き取り、男に手渡した。

「ん、確かに。じゃぁ、また後で領収書もってくるから。よろしくな。」

そう言うと男は、元来た道を戻りつつ、現場の建設中アパートを横目に見上げながら立ち去っていった。

<そうかぁ。この辺りは住吉会の縄張りだったのかぁ。。。>

何の裏付けも無く、またあの男が本当に住吉会の組員なのか知る由もなかったが、本人がそう名乗ったという既成事実を以って私は、「払うべきモノを払うべき相手に払ったのだ。」 と自分に言い聞かせることで、安心感の拠り所にするより他なかった。

 ・・・ To be continued ・・・


印傳屋(INDEN-YA)の粋な印伝小物たち ~現代に映える伝統工芸・甲州印伝の世界~

鹿革」×「色漆」×「伝統

印傳屋(INDEN-YA) の"粋"な印伝小物たち

マッサージ
交差点
コンセント
福笑い
「なっ、ない!」
「なっ、ない!」 PARTⅡ
リーマン・ブラザーズ

あなたの姿勢に合わせてぴったりフィット!
変幻自在の新感覚ソファ 「Yogibo (ヨギボー)」

Copyright (c) 2010 Foovoowoo Japan